ビシカです.
製造業に限らず,数多くある業務上疾病のうち「腰痛」が全体に占める割合が最も高いことはよく知られています.
たとえば,平成30年(2018年)の業務上疾病発生件数(厚生労働省HP:業務上疾病発生状況等調査)は,製造業では合計1,631件でしたが,そのうち「腰痛」は742件で約45%を占めます.製造業の業務上疾病第2位は「熱中症」の221件なので,腰痛の方が熱中症よりも3倍以上高いことが分かります.
全業種では,業務上疾病発生件数合計は8,684件で,そのうち「腰痛」は5,016件であり約58%を占めます.
一度腰痛になると,再発しやすいといわれているため,労働者の腰痛予防対策は非常に大切になります.腰痛の発生原因としては,動作要因,環境要因,個人的要因等があります.
動作要因は,重量物の持ち上げ,介護作業等の人力による人の抱え上げ作業,長時間の静的作業姿勢,ひねり等の不自然な作業姿勢などが挙げられます.
環境要因は,建設機械等の操作・運転による振動,寒冷・多湿な環境に身を置くこと,照明の暗い所での作業,作業空間が狭く不自然な姿勢となる作業,滑りやすい床面など挙げられます.
個人的要因は,年齢,性別,筋力量,身長,体重,体力や基礎疾患があることなどが挙げられます.
腰痛の予防対策としては,「職場における腰痛予防対策指針」(平成25年6月18日付け基発0618第1号)が示されていますが,以下簡単に説明します.
1.自動化,省力化 :自動化により作業をなくす.困難な場合は,台車等補助機器を導入
2.作業姿勢,動作 :不自然な姿勢をとらないようにする
3.作業の実施体制 :健康状態等を考慮して腰に負担のかかる作業を一人でさせない
4.作業標準 :腰痛の発生要因を低減できるよう,作業動作・姿勢・手順等見直すこと
5.休憩・作業量,作業の組合わせ等 :適宜休憩時間を設け,姿勢を変えるようにする
6.靴,服装等 :作業時の靴は,足に適合したものを使用し,ハイヒールやサンダルを使用しない.作業服は,伸縮性,保湿性,吸湿性のあるものとする.腹部保護ベルトは,個人ごとに効果を確認してから使用を判断する.
詳しくはこちらをご覧ください⇒https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/youtsuushishin.html
実際にこのような労働衛生管理を行うのは,事業者(トップ)の「腰痛の予防対策を講ずるぞ」意識が非常に大切です.なぜなら,腰痛の発生要因は,作業によって多種多様であり,要因自体も変化します.また,個人が腰痛予防を頑張っても,作業内容(例えば,ある作業においては,重量物を持つ場面が必ずある等)が変わらなければ,発生リスクを効果的に下げることが難しいことも多々あります.
以上から,腰痛予防対策を進める際は,個人ではなく最低でも職場単位で実施し,さら継続的に実施する必要があります.腰痛がなくなると,製造業の業務上疾病発生件数が45%も減ります.職場によっては,腰痛予防対策の取り進めは,「ゴールの見えないマラソン」のように感じるかもしれません.しかしながら,根気強く対策をしていけば,「継続は力」となり腰痛発生の絶対数は下がりますので,少しずつでも対策を講じていきましょう!